Category Archives: 徒然なる思考回路

EBM実践のための訓練は個々の医療人がやることなのでしょうか?

まさひろ@メディカル担当です.

気がつけば大晦日.
今年もあっという間に過ぎ去ろうとしています.
本年も皆様のおかげで, 大変貴重で有意義な一年を過ごすことができたと思っております.
この場を借りて, 改めて御礼申し上げます.

さて, 今年は昨年にも増して本当にいろんなことがありました.
ここでは全てを語ることはしませんが(したくありませんが), その中でもこれだけは言語化して備忘録として残しておきたい,
そんな風に思っていることをつらつらと書き留めておきます.

EBM実践のための訓練は個々の医療人がやるこのなのでしょうか?

僕はEBMに出会ってまだ一年とちょっとしか月日が経っていません,
普段JJCLIPで散々偉そうに語っておりますが,

青島先生のように呼吸をするかのごとく論文を読み, それに適切な解釈や適応方法を加えて世に発信するなどまだまだできない未熟者です.
桑原先生のように自然な立ち居振舞いで言葉を紡ぎ, 聞く人視る人に新しい示唆や気づきを楽しみながら与えることもとてもできそうにありません.

そんな初学者の端くれである僕がEBMについて語る事自体が, もしかしたら不謹慎なのかもしれません.
しかし, それでも日頃の業務の中で感じるコトに関して, 書き起こしたいことはあります.
かなりの駄文ですが, もしよろしければお付合いください.

僕は今年の8月に転職しました.
薬剤師としては継続して勤務しておりますので, 正確には転職という言い回しは不適当なのですが(職種は転じていない),
まぁ, とにかく転職したのです.
今の職場はとある総合病院の近隣に立つ, いわゆる門前薬局というところです.
(こういう言葉が早くなるなることを願ってやまないのですが…)
毎日たくさんの患者さんとそのご家族が来局されます.
処方箋をもっていようがいまいが, 一人一人の方々にできる限りの時間を割いて健康を支援をしていると, 無理やり良い表現をすればそういうことをしているつもりではあります.

そんな中,
「この薬はずっと飲まないといけないものなのですか?」
「病院で言われたことがさっぱり理解できないけれど教えてください」
「自分の病気は本当に治癒するのでしょうか?」
「こういう症状は病院にいったほうがいいのか, この薬局にあるこの薬で対処できるのか?」
「薬以外でなにか気をつけることはあるのでしょうか?」
といった, 答えがありそうで実はそうでもない, 様々な疑問に出会うこともしょっちゅうです.

そういった疑問に自分の力で一定の回答をする際にも,
エビデンスを”適切に”駆使すれば,
患者さんに”適切に”向き合うことは可能であることを,
僕はEBMを学ぶことで知りました.

それにある程度の満足を得ることはできております.
ただ, 最近はもうちょっと別のことも意識するようになりました.

それは,
「EBM実践を心がける組織を増やすこと」

おこがましいとは自覚しております.
でも, やりたいんです.

EBMはとても誤解されています.
EBMという言葉や, 論文を読むことだけが一人歩きしていていることも, そこまで異論はないと思います.

なぜそのようなことになったのか, その解説は他の先生方の著書や雑誌の投稿に譲るとして,
ここではどうやったらEBMの輪が自分の周囲に広がるのか,
そのための僕なりの考えを述べることにします.

医療は患者さんに始まり患者さんに終わります.
その際の患者ー医療従事者間のコミュニケーションツールとして,
患者背景と自身の専門性を考慮しつつ, エビデンスを適切に活用して医療を行うことがEBM実践のはずです.

その一貫としての英語論文の批判的吟味をするのですが,
その訓練はともすると医療従事者”個々人のスキルアップ”と誤解されがちです.

でも実はそうではないんじゃないかなと最近思い始めています.
本来は個々人が所属する組織がどうエビデンスを使うのかを学び, その使い方について予めコンセンサスを得るために批判的吟味の訓練をするのではないのでしょうか?
(各地で開かれるワークショップやSGDがその例でしょうか)
つまりEBMの実践のための訓練は, 組織全体の質向上のために行い, その結果,
個々の医療従事者が目の前の患者さんに対して現時点でもっとも妥当であろう医療介入をすることになるのかなと思っています.

EBMはワクチンのようなものなのかもしれません.
集団で一斉に接種することで初めて真価を発揮するものがワクチンというものなのではないでしょうか.

EBM実践には, 一人一人の努力ももちろん必要ですが,
個々人の属する組織が一丸となって実践への道を歩んだ方が結果としてより妥当な医療ができるのではないか,
そんな風に感じております.

…うーん, グダグタな文章.
本当にすみません.
まさしくまだまだ未熟者ですね.もっと精進します.

こんな駄文を最後まで読んでくださったあなたに感謝します.
ありがとうございました.

来年も, どうぞよろしくお願いいたします.


水素水に関する考察

まさひろ@メディカル担当です.
まずは近況報告を
わたくし、今月末をもって現在の職場を退職し、来る8/1から新しい薬局で働きます.

その薬局、今月から高濃度水素水(20,000ppm)サーバーを試験的に設置しているとの情報を得ました.

『高濃度水素水?なんじゃそりゃ?』

高濃度水素水、還元作用を有し、体内の酸化反応を押さえるなどの効能を謳っているようです.
例えば、Googleで検索するとこんなサイトがありました.

20000ppmの高濃度水素水サーバー YWH-500T
水素水の驚くべき効果!
水素水の研究~医療・健康分野の学術文献紹介~

引用文献も載っているサイトもあるにはあるのですが、
実験動物や細胞など、いわゆるin vitroの研究結果がほとんど…

『これは一度自分で調べてみよう』

そういった経緯で、今日はいつもとは少し違った内容(?)でブログを書き連ねてゆこうと思います.

【疑問の定式化】

【Patient】 一般市民(疾病等の有無は問わず)
【Exposure】 高濃度水素水を飲用
【Comparison】 プラセボもしくは無投与
【Outcome】 健康を維持できるのか?
研究デザイン 予防・治療、RCT?

といったところでしょうか. 水素水の効能に関しては僕自身も背景知識に乏しいため、
今回はこのような非常に曖昧な定式化しかできそうにありません.

【Pubmed検索】
「hydrogen water」を検索語、カテゴリーを「Therapy」、範囲を「narrow」
   ↓
400件近い検索結果. ここから有用な情報をさがすのは難しいと断念.

検索用語を変えてみよう.
「hydrogen rich water」、カテゴリーと検索範囲はそのまま.
   ↓
12報まで絞り込むことに成功. これならAbstractだけでもすべての文献に目を通すことができそうです.

では、いきましょう.

1.
Hydrogen-rich water affected blood alkalinity in physically active men.
Res Sports Med. 2014;22(1):49-60. doi: 10.1080/15438627.2013.852092.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24392771

【Patient】 運動のできる若年健常男性52名
【Exposure】 26名に高濃度水素水を2L/日(濃度不明)を14日間飲用
【Comparison】 26名にプラセボとして水道水
【Outcome】 エクササイズ後に血液pH、血中二酸化炭素分圧(pCO2)、および重炭酸塩濃度の変化

ランダム化プラセボ比較二重盲検試験
抄録のみ
脱落者なし
ITT解析の有無は不明

【結果はどうか?】
・運動前での動脈血pH:E群 > C群
 そのpH差 = 0.04 (95% confidence interval; 0.01 – 0.08; p < 0.001)
・運動後での動脈血pH:E群 > C群
 そのpH差 = 0.07 (95% confidence interval; 0.01 – 0.10; p = 0.03)

・血中重炭酸塩濃度
 試験前30.5 ± 1.9 mEq/L 対 試験後 28.3 ± 2.3 mEq/L(p < 0.0001)

【結果をどう活用するか?】
若年男性にも水素水は安全に投与できると結論.
まぁそうだとは思いますが、プライマリアウトカムがどの項目なのか不明であり、かつボンフェローニ補正もしていない模様.
運動中の水分補給には「まぁ悪くはないでしょう」といった程度の勧め方が妥当なように思えます.

2.
Effect of hydrogen-rich water on oxidative stress, liver function, and viral load in patients with chronic hepatitis B.

Clin Transl Sci. 2013 Oct;6(5):372-5. doi: 10.1111/cts.12076. Epub 2013 Jun 13.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24127924

【Patient】 60名の慢性B型肝炎
【Exposure】 通常治療に加え水素水を1200-1800mL/日、一日2回に分けて飲用
【Comparison1】 通常治療のみ
【Comparison2】 通常人30名を別途コントロールに置く
【Outcome】 血中酸化ストレス、肝機能、およびB型肝炎ウイルスDNAの量が変化するのか?

ランダム化プラセボ比較試験
抄録のみ
盲検化、ITT解析の有無は不明

【結果はどうか?】

酸化ストレスは介入比較間で変わらず、
ただし、肝機能の改善とB型肝炎ウイルス量の減少が確認されている
(統計的に有意か否かの記載なし)

【結果をどう活用するか?】
「酸化ストレス」、「肝機能」の具体的な指標が載っていないのでなんとも言えず、
肝炎ウイルスが減ることと、患者の自覚症状の変化とにどう関連があるのかについても分からず.
「B型慢性肝炎の患者に対しても、飲んでもまぁいいか」という程度の推奨でしょうか.

3.
Effect of supplementation with hydrogen-rich water in patients with interstitial cystitis/painful bladder syndrome.

Urology. 2013 Feb;81(2):226-30. doi: 10.1016/j.urology.2012.10.026.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23374763

【Patient】 間質性膀胱炎(IC)/膀胱痛症候群(PBS)を有する患者30名(平均年齢64歳、女性29名男性1名)
【Exposure】 水素水を8週間投与
【Comparison】 プラセボ水を8週間投与
【Outcome】 IC/PBS症状スコアの改善具合(患者申告)

ランダム化プラセボ比較二重盲検試験
抄録のみ
ITT解析の有無は不明

【結果はどうか】
それぞれの症状スコアの変化に統計的有意な差はなし
ただし、膀胱痛に関しては痛みの軽減が見られ、それは統計的に有意な差であった
(詳細は不明)

【結果をどう活用するか?】
例えば、細菌性膀胱炎を罹患した方に対して
「水分をよく補給して尿を薄めてゆきましょう」とはよく言われます.
自覚症状の減少・消失が患者さんにとっては非常に重要であると僕は思うので、
そういった方々に水素水を勧めることは、アリかもしれません.

4.
Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance.

Nutr Res. 2008 Mar;28(3):137-43. doi: 10.1016/j.nutres.2008.01.008.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19083400

【Patient】 2型糖尿病患者30名、耐糖能異常患者6名
【Exposure】 水素水900ml/日を8週間投与
【Comparison】 純水900ml/日を8週間投与
【Outcome】 経口グルコース負荷試験後の各種生化学検査項目の変化(インスリン抵抗性および酸化LDL、遊離脂肪酸などの酸化ストレス項目)

ランダム化プラセボ比較二重盲検試験
抄録のみ
どちらの群も12週間のウォッシュアウト期間を設けている.

【結果はどうか】
上記の各種検査項目に関して、水素水飲用群で有意に検査値が改善.
(酸化LDLコレステロール値など)
具体的な数値の記載はほとんどなし.

【結果をどう活用するか?】
複数の項目をアウトカムに設定しているため、有意差があったとしてもαエラーの可能性は否定できません.
肝心のインスリン抵抗性や血糖、HbA1c値の改善があったがどうかも抄録には記載がありませんでした.

さらに、既に2型糖尿病に罹患している人間を対象にしているにも関わらず、
「糖尿病予防に効果があるのではないか」
と結論づけていることにも強烈な違和感を感じました.

少なくとも、この論文だけで糖尿病患者(予備軍含む)に水素水を強く勧めることは僕はできません.
ただ、脂質異常症を合併している2型糖尿病患者で、脂質コントロールが不良で藁をもすがる想いの方が仮にいらっしゃったら、勧めてもいいのかもしれません.


【おまけ】
ひどい文献もありました.
Open-label trial and randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover trial of hydrogen-enriched water for mitochondrial and inflammatory myopathies.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22146674
全文フリーで読むことができます.
代用のアウトカムが21項目、(かつ MMP-3など単独での結果のみでは有用とはならないとされる検査含む)
しかもP値にボンフェローニ補正なし(つまり有意差判定の基準が0.05のまま!)
これでは偶然差が出たとしか僕は思えません.

…途中で読むのを諦めました.
この文献は参考にはならないでしょう.


【結局のところ、疑問は解消されたのか?】
「健康を維持できるのか?」という問いに関しては「不明」としか言いようがないようです.
水素水には含まれる水素の濃度も関係しているようですが、各文献には果たしてどれくらいの濃度の水素水が使われているのかも不明でした.

「毒にも薬にもなりそうにない」というと非常に誤解を招きそうですが、これが僕の率直な第一印象です.

ただし、膀胱痛症状を有する一部の方々にはお勧めできる可能性が含まれているため、そう真っ向から否定するものでもないような気もします.
今後も別の臨床試験の結果が出てくるかは不明ですが、自分の薬局でも何かしらのエビエンスを示すことができたらよいかなとも思います.

【論文を読んで明日からの自分の行動は変化するのか?】
多くの健康食品等の効能効果はエビデンスの前に否定的になりがちです.
しかし、だからといってそれを服用・飲用する方々の「自身の健康に対する不安な気持ち」まで否定してはいけません. そこが臨床予防医療(?)の難しさでもあり、また醍醐味であると僕は思っています.

あと憂慮すべきなのは、
「売ったら売りっぱなし」
ということではないでしょうか?
(これは昨今のOTC医薬品のネット販売にも通じるものかと思います.)

もしかしたら、水素水を『勧める or 勧めない』といった二元論自体がもはや適切ではないのかもしれません.

薬局にいらっしゃる方々の持つ、健康に対する様々な価値観を尊重し、
対話を通じて豊かなコミュニケーションを実現しつつ、
処方箋医薬品から健康食品を含めて、薬局でお渡しした”モノ”を服用してその人の体調が
その後どう変化したのかを、二人三脚で一緒に診て(見て/視て/看て)ゆく…

そういったメンタリティをもって、明日からの業務に勤しみたいと思います.

長文・駄文失礼いたしました.
最後まで読んで下さったあなたに感謝いたします.


Protected: MEMO:リフィル処方箋に関する現状(パスワード必要)

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回想〜少しは何かが出来ているのだろうか?

まさひろ@メディカル担当です.
今日は少し、いやかなり嬉しい報告があります.

2013年9月6日

まさひろ「スカイプを使って論文の抄読会をして、その模様をツイキャスで配信すると、EBMを学ぶ機会の敷居が下がってよいのかも」

…本当に軽い気持ちで、でもEBMに対する確かな必要性を感じてTwitterで呟いた一言から、すべては始まりました. 薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)、誕生の瞬間でした.

あれから、一年も経たずに僕らの取り組みが週刊医学界新聞に掲載されました.
薬剤師のジャーナルクラブ
インターネット上でのEBM学習の場を提供する試み

(@syuichiao先生執筆・投稿. ありがとうございます!)
決して僕一人ではここまで発展することはなかったでしょう.

無名でかつ実績もない僕のような素人医療人の戯言に真摯に向き合って下さった、@89089314先生、@syuichiao先生に感謝いたします.
そして、いつも放送を聴いてくださっている全国の皆さまに心より御礼申し上げます.

呟いた当時はEBMについて全くのド素人であった僕. そんな僕でも、このように抄読会を共同開催できるくらいには、少しは成長できたのかなと思っております.

これからも、一人でも多くの方に、気軽に、楽しくEBMの手法を学べる場を提供できるよう、鋭意努力して参ります.